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久しぶりに、日本語の小説を読んだ。
小川洋子さんの、『博士の愛した数式』

以下は、小説の感想と小説にでてくる数式についての解説。

登場人物は、交通事故の後遺症で記憶が80分しかもたなくなった64才の元数学教授。ヒロインの家政婦からは博士と呼ばれている。それから、博士の義理の姉、博士を世話するためにやとわれた家政婦、博士にルートというあだなをつけられた10才になる家政婦の息子。
この4人によるあたたかな交流を描いている。
博士は、母親がシングルマザーで、人からあまり愛情を受けていないルートに無条件の愛をそそぐ。
やがて、博士とルートは深い友情で結ばれていく。

小説の半ばで、義理の姉と家政婦が言い争っている場面があった。そのとき、博士はそっと二人の前に一つの数式が書かれたメモを置いた。

e + 1 = 0 ⇒①

これは、『博士の愛した数式』 だった。
博士が愛し、すべての数学の中でもっとも美しいといわれるこの数式の意味を(our jewel and one of the most remarkable, almost astounding, formulas in all of mathematics.)、誰にもわかるように、ぼくなりに解説してみよう。
あまりに有名な数式なので、ぼくなんかよりずっとうまく解説しているサイトは、それこそネット上に無数にあるだろうけれど。(汗)

① の数式は、以下のオイラーの公式の姿を変えたものだ。

e = cosθ+i sinθ

本当は、オイラーの公式の証明から始めなければならないが、少しめんどうなので、これは wikipedia に丸投げで・・・。 ⇒オイラーの公式
wikipedia では、指数関数と三角関数のマクローリン展開を使って証明していますが、ぼくはガウス平面を使った複素関数による証明の方が、視覚的でわかりやすいから好きでした。(爆)

《小説と数式の解説》
e = cosθ+i sinθ (オイラーの公式)

一般には角度は度(たとえば、45°とか90°とか)を使って表現するが、数学では角度は、πで表現される。(半径1の円をとって、半径と円周の比で角度を表す。2π=360°)
θの値に、(π=180°)を代入すると、三角関数の特性から、sin波とcos波の値は、それぞれ、0、-1になる。
したがって ⇒ e = cosθ+i sinθ ⇒ e = -1

上の式を変形すれば、① の数式、e + 1 = 0  が得られる。

eは、自然対数の底で、その近似値は、2.718281828…。(e は無理数かつ超越数。)
e は対数関数を微分する過程で発見された数で、π(円周率)が視覚的でわかりやすいのに比べると、一般に馴染みがないかもしれない。だけど、πと並んで、数学ではもっとも重要な定数の一つ。
e は微分しても積分してもその値が変わらないという不思議な特質を持っているから、微積分では不可欠な数である。 ⇒自然対数とは何か
もちろん、πは円周率で、その近似値は、3.14159265359…。(πも、無理数かつ超越数。)
i は虚数(imaginary number)の基本単位で、i=√-1。 i を二乗すると、-1になる。

この数式では、e (自然対数の底)を i(虚数)と π(円周率)でべき乗してから、その値に自然数の1(最初の数)を加えると、0(ゼロ)に等しくなる。

ぼくなりにこの意味を解釈すれば、長年、人類に忌み嫌われていた虚数(imaginary number)という数を触媒に使うと、幾何学的な三角関数は、指数関数という解析的なものに深くむすびつく。

小説の中で、博士は、虚数(imaginary number)について、次のように語っていた。
「(虚数は)とても思慮深い数字だからね、目につく所には姿を現さないけれど、ちゃんと我々の心の中にあって、その小さな両手で世界を支えているのだ」

博士は、オイラーの公式のように、目にみえないところで、みんながお互いに深くむすばれていると言いたかったのだろう。

最初は、高校中退(a high school dropout)の家政婦には、オイラーの公式の意味が理解できなかった。
家政婦は、図書館に通って勉強してその意味を理解しようとする。
博士が亡くなった後、家政婦は、オイラーの公式が書かれたメモを見ながら、次のように回想する・・・。

「今振り返っても、博士が幼い者に向けた愛情の純粋さには、言葉を失う。それはオイラーの公式が不変であるのと同じくらい、永遠の真実である。」
「折りにふれ、私はメモを取り出して見つめる。眠れない夜に、一人きりの夕方に、懐かしい人たちを思い出して涙ぐむ時に。そこに書かれた偉大な一行の前に頭を垂れる。」

他にも、素数や、完全数や、友愛数など、さまざまな数の話が出てくるが、博士の数に対する愛情がとても純粋で素晴らしかった。

ぼくなんか、自然数も無理数も虚数も、たんに便利だから使っているだけで、それらの数への思い入れなど何もなかったのだが・・・。(汗)

以上、小説の感想というよりも、数学の解説みたいになってしまったが、もちろん、この小説は数学を無視しても十分楽しめると思う。
作者の小川洋子さんが、文系の人。
文章も、博士が愛した数式のように、瑞々しい。
決してハッピーエンドとはいえないが、読後感は、なんとなくあたたかい気持ちにさせられる小説でもあった。

ぼくも、博士も、決して人生は望むようにはいかないが、「ピュタゴラスの定理のように、あるいはオイラーの公式のように、毅然としていればいいのだ。」



オイラーの公式についてもっと詳しく知りたい人は、以下の、吉田武の 『オイラーの贈物-人類の至宝 e = -1 を学ぶ 』 という解説書がおすすめです。
これは、文句なしの名著。
知(intelligence)は切り売りしたり、安売りしたりするものではないという著者の信念のもとに書かれた、500ページを超える大作。
長らく絶版になっていたが、読者からの強い要望で再版された。かなり売れているそうだ。
日本の理数教育も捨てたもんじゃないと思った。


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