《 深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。 》 ニーチェ

今日は朝から暖かい雨が降っている。
外出するのはやめて、ドトールコーヒーを入れ、久しぶりにブログを更新することにした。
テーマは、最近読んだ野矢茂樹さんの『無限論の教室』について。
 
ぼくが大学で受けた中でもっとも不人気だった講義の話をしよう・・・

この本はこんな書き出しではじまっている。
ぼくとタカムラさんという名の女子学生、ちょっと変わったタジマ先生、この3人による対話というスタイルの無限論のお話し。
何となく、雰囲気が 『数学ガール』 にも似ていて、楽しく読めた。

だが、読んでいて合点がいかない箇所もあった。
僕なりにこの本の内容を咀嚼すれば、(僕の理解は数学的には厳密でないのだろうが。)

① 1,2,3,4,5…という自然数の全体。もちろん自然数は無限にある。任意に選んだ自然数よりも大きい自然数なんていくらでも示すことができるから。

② 2,3,5,7,11,13,17…という素数の全体。
素数とは、1と自身の数以外に約数を持たない数。素数も無限にある。
素数が無限にあることは、古代ギリシアの数学者、エラトステネスによって証明されている。

③ 有理数とπや√2や√3などの無理数を含めた実数の全体。実数も無限にある。

素数は自然数の一部だけれども、素数の全体と自然数の全体とではその大きさは等しい。
無限の一部をある条件のもとで取り出してもそれが無限ならば、取り出された無限は元の全体と等しくなる。無限では部分と全体は等しくなるのだ。
同様な例⇒自然数の全体と偶数の全体は大きさが等しい。

それならばすべての無限は大きさが等しいのだろうか?
カントールによれば、それは間違っていて無限にも大小があるそうだ。

上の3つの例では、①自然数と②素数は大きさは等しいが、③実数は、
①や②よりも無限の度合いが大きい。
どれも同じ無限だが、その度合いは異なっている。より小さい無限やより大きい無限があるのだ。
これは言葉のアヤとして言っているのではなく、カントールによって数学的に厳密に証明されている。たぶん、ピタゴラス定理や、それの一般三角形への拡張版である余弦定理などと同じくらいの厳密さで証明されている。(ブルーバックス新書、『集合とは何か』 等を参照。)

この本はこうした無限の特性、カントールの集合論、ゲーゲルの不完全性定理などを一通り解説しながら、可能無限の立場から、カントールたちの実無限派(現代数学の主流派)を痛烈に批判していく。

実無限と可能無限とは?
例えば、無理数の√2。
実無限の立場では、√2は、1.41421356…(以下循環しない数が無限に続く)という、1と2という数の間に存在する完結した数。
一方、可能無限の立場は、√2とは、2を開平していく過程の中で次々と生み出される値に他ならない。
1.41421356…という数があらかじめあるのではなく、2を開平して無限に少数展開していく作業に対して、√2という名前をつけたにすぎないのだ。

可能無限の立場では、自然数も、1,2,3,4,5…というように展開が果てしなく続くという可能性、その可能性が「無限」なのであって、実無限派が主張するように、自然数の全体が、あらかじめ完結した無限として存在するわけではない。

どうなんだろ?(汗)

僕の習った数学では、√2は1から2の直線の間にすでに完結して存在する数(実無限)のはずだ。
√2などの無理数が実無限でないのならば、直線は空隙だらけで連続体を形成しないだろう。(岩波文庫、デーデキントの『数とは何か―連続体と数の本質』 を参照。 )
それに、可能無限の立場をとるならば、極限を扱う無限級数など、数学で普通に使われる多くの公式が成立しなくなると思うのだが・・・。

結論。
この本は数学書として読めば欠陥も多いが、数学を哲学する本としてはおもしろいのだろう。
タジマ先生のおやじギャグやタカムラさんとのちょっとした会話なども可笑しくて、青春ノベルのように楽しく読めた。
僕が学生のときにこんな講義があったならば受講したいとも思った。

最後に無限に関する僕の個人的な思い出話を一つ書けば、たしか小学6年のときだったと思う、家にあった数学に関する雑学本をたまたま読んでいて、その中で以下の無限級数、

1+ 1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/32・・・

この無限級数の和は2になるが(この級数は2に収束する)、これがよく分からなかった。
当時の自分には、足していく数が次々と小さくなるとしても、プラスの値を無限に足していくのだから、その合計は当然無限大になるように思えたから。
いまだったら、公比 r が1より小さい場合の、初項a、公比 r の無限級数の和は a/(1-r) だから、これを計算して2という値は直ぐに出てくるのだが・・・・。

この本のような可能無限の立場では、こんな簡単な計算式すら成立しなくなるんじゃないの?


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